笑いの効能のお話


テレビで番組を放送するためにはMA(整音)と呼ばれる作業をして、放送できる音声に調整をしなくてはいけないのですが、それをやってくれるのがサウンドエンジニアと呼ばれるプロフェッショナルで、最初の写真のようなMAスタジオと呼ばれる場所で作業してくれます。

 

僕がその時MAをしていただいていたサウンドエンジニアさんは、少しご年配の白髪が混じる、いかにも職人気質という感じの無口な方でした。もう感想としましては「怖そう」しか浮かばないTHE・MA職人といったところでしょうか。

 

僕もテレビに番組作りに関しては素人同然でして、MAスタジオに持ち込んだ僕の制作したファイルがいろいろと不備があったりしたんですね。そんな時には、その職人さんは一言も僕に文句を言う事もなく、ただ黙って「チッ」と舌打ちをし、黙々と作業を続ける、そんな神様のような方でした。

普段一切言葉を発しない職人さん。MA作業に番組の内容なんか関係ない。俺はただ「最高の音」、放送に乗せて問題無い「音」を、最高の品質で届ける、それだけが仕事だ。内容はどうでもいい。そう言わんばかりにただただ作業を続けます。

 

僕が何十時間もかけて取材してできあがった番組を、ただただ0秒から最後の秒まで、少しずつ着実に丁寧に音を仕上げていく。

 

そんな緊張感が走るMAスタジオに流れるのは、ただただ巻き戻したり早送りしたりする整音作業の音だけです。

 

そんな中で、とある番組で奇跡が起きました。

 

いつも通り静かに作業が続けられていたその時、サウンドエンジニアのおっさんが「ふっ」と笑ったのです。僕が笑いを意図して作った場面で、確かに息を漏らして笑ったのです。あのばくだん岩みたいに固いおっさんが笑ったのです。

 

お、おっさんが、、、、、笑った・・・・・

 

そう、一番厳しい視聴者が笑ったのです。その時、僕はこの番組は良い番組になると確信しました。しかしそれ以上に、その吐息のような笑いがこぼれた瞬間に、MAスタジオの空気が一変したのも感じました。それはその場にいないと分からないのですが、絶対に間違いなく空気が変わったのです。

サウンドエンジニアのおっさんが、黙々とではなく、「番組を見ながら」作業を始めたのです。内容に興味を持ち始めたのが、確かにその後ろ姿から分かったのです。

 

僕はその時に、笑いの持つ効能の大きさを感じました。

 

テレビ番組を作ったのはそれで3本目でした。それまでの僕は、とにかく撮影した素材の中から、一番良いシーンを選びに選び抜いて、30分という時間内に片っ端から詰め込み、「良いもの」を作ろうと躍起になっていました。少し力んでいたとも思います。僕の作っている番組はドキュメンタリーなので、基本的に笑いは起きません。しかし僕はその時、確かに笑いの持つ強烈な効能を発見してしまったのです。

 

笑いは人を惹きつける。

 

僕はその後、番組を作る時は、不必要だろうとなんだろうと、必ず笑えるシーンを入れることを最優先にすることにしました。

 

 

 

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