バリ島で見つけた宇宙のお話


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2012年12月9日、バリ島は雨期に入りかけていて、夕方からスコールに降られていました。それも日が落ちようとする頃には完全に降り止み、辺りが青く染まる頃には、雨の匂いだけを残して夜を迎えようとしていました。

雨上がりのバリ島

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その頃、僕たちはウブドという街のそばにある、とあるバリ人のお家に到着しました。
グスアジという伝説的なバリダンスのマエストロ。

グスアジ

84歳を迎えるそのおじいちゃんは、既に1960年代には、当時のインドネシアの大統領に連れられて、バリダンスで海外を飛び回るほど有名な方だったそうです。そのグスアジが、長年の夢であった自分のバリンダンス学校を始められるということで、交流のあった私の父が招待され、運良く僕もその記念すべき開校の宴に参加する事ができました。

場所はグスアジのお家(学校?)。

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商用で行う訳ではないバリダンス。記念すべき日を『祝う為だけ』に催される特別な宴。普段はウブドにある王宮の舞台で演技を披露するトップクラスのダンサーが、招待されたお客と、家族のためにだけ演じるその舞台は、びっくりするほど小さい自宅の中庭でした。

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座席と呼べる用意された椅子は20席ほどで、後はその辺りにある段差や空いたスペースに自由に人が居座っていて、最終的にはおそらく100人ほどがダンスを鑑賞していたように思います。

その中庭は忙しなくごった返していて、僕らがそこに入るとスタッフの女性が席に案内してくれ、バナナの葉っぱでくるまれたバリの軽食を持って来てくれました。

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奥に食べ物を作る台所があるのでしょう、数多くの女の人が出たり入ったりしながら、招待客を案内しては、軽食を運んでいます。スタッフと書きましたが、きっとこの家のご家族の皆さんなのだと思います。奥の半分開いた扉からは、子供のまあるい顔が3つ4つ、好奇心を並べてこちらを覗きこんでいます。

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辺りはお供えものから煙るお香の匂いを、雨上がりの清々しい匂いがやんわりと包んでいて、一段下がった気温が、本当にちょうど良く感じられました。舞台はバナナの葉っぱを奇麗に編み込んだ飾りや、バリ独特の模様に染められた布で仕上げられていて、金色と他の色が混じり合うその配色は、絶妙だなと思いました。

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その時、僕はふと、その空間が恐ろしく完璧な事に気づきました。

もしさっきまでの大雨が今も降っていたら、たとえ簡易的な屋根があるにしろ、きっとこの中庭はべらぼうに混乱していて、招待客の居場所を作るのも難しかったでしょう。でもその宴はまるで雨がやむ事を完璧に知っていたかのように完璧でした。

雨上がりの気温は冗談みたいに完璧でしたし、お香と混じり合った雨の匂いが作る雰囲気も完璧でした。

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そこへガムランの音楽隊が何の前触れも無く入ってきて定位置に付き、しばらく笑顔でお互いに会話をしていたりしました。周りも「さあ始まるぞ」という感じは1ミリも無く、相変わらず忙しなく女の人は行ったり来たりしているし、子供は狭い会場の中で空いていた席を探し当てて、姉妹で餅をつまんでいます。

男の世界なガムラン演奏隊の着替え風景

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開始前のごたごたした雰囲気は家族の雰囲気。空いた席でご飯をつまむ女の子。

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本番直前の音楽隊

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さらっと入場してくる音楽隊

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そんな中で音楽隊の一人が、本当に予告や前置きもせずに、まるで空気にとけ込むように完璧な自然さでガムランをたたき始めました。それは自宅でお母さんが出した料理を、いただきますも言わずに食べだすような、気づいたら食べ始めていて、そんな事は誰も気に留めないような、そんな自然さで、いつの間にか音が鳴り始めたんです。

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どかかで読んだのですが、ガムランは昔のインドネシアで各王朝が持っていて、その王朝の力が及ぶ範囲は、持っているガムランの音が響き渡る範囲だったそうです。その話が本当か逸話かは分かりませんが、目の前で鳴り始めたガムランの音は、確かに空気に溶け込んで、辺り一帯を不思議な力で支配し始めました。

中庭の喧噪の中に自然に溶け込みながら、確かに空気を支配していたのです。

そして十分に空間に音が染み渡った頃に、ダンサーが入ってきました。

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その日の昼間、バリのお寺を巡っていた僕は、バリのお寺の庭は隙だらけだなと思っていました。日本のお寺の庭園は1ミリも隙が無く出来上がっていますが、バリの庭園は美しいものの、まだまだ隙があると思いました。これはやはり日本人特有の偏狭的なこだわりが見せる技だろうなと思っていましたが、

今目の前に現れたバリダンスは、1ミクロンの隙もありませんでした。

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バリダンス固有の目の動き、指先の細かすぎる揺れ、腰の動き、中腰に折れ曲がった体のバランス、何枚にも重ねられた煌びやかな衣装、素足が石畳に触れるタイミング、緊張と緩和を繰り返す顔の表情、全てが完璧すぎるダンスでした。

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ここまで違うものか、今まで見て来たバリダンスは何だったんだ、そう思ってしまうほど、驚異的に素晴らしいダンスでした。

 

そしてそれだけではない気迫とも呼べる魂が溢れ出ていました。
この日のためにしたためられた魂だったのだと思います。

 

ちなみに魂溢れるこの女の子は14歳です

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日本人のダンサーがその中にいたのにはびっくりしました

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そして僕は気づいたら涙をこらえるのに必死になっていました。

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あまりにも完璧に用意された空間に、とてつもなく完璧なダンスが披露され、それがあまりにも格好良くて、とにかく何もしなければ間違いなく泣いていました。

そんな僕のすぐ目の前では、子供の姉妹がご飯を食べながら「やっぱりお姉ちゃんはうまいなー」と言いたそうな目で舞台を見ています。そう、ここの家族にとっては完全なる日常風景で(美味しい料理も出ていたし特別な日ではあったでしょうけど)、僕がただ一人(あと他の招待客もかもしれない)、その日常風景に強烈な感動をして勝手に泣きそうになっていたのです。

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さっきまで忙しそうにしていたみんなも、やっぱり舞台を撮っておきたい044

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その完璧すぎるダンスが披露している舞台に、途中飼い犬が入ってきたりするんです。子犬が。ひょこひょこ入って、おもむろに舞台の真ん中で寝始めたりして。誰一人焦りもせず、誰一人追い払いもせず、超一流のダンスがただただ続けられています。それはまるでテレビの上に猫が乗っているのを、家族が誰も気にしないかのように自然でした。

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ものすごい超一級のダンスが披露されていても容赦なく前を通る女の子。いろいろ運ばなきゃいけないから大変なんです。

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そしてこの日は、特別にグスアジも同じ舞台で踊りました。滅多に見られないというグスアジの踊りが見られるという事で楽しみにされていた方もいらっしゃったようです。特別な舞台でした。その特別な舞台はご自宅の中庭でした。

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これが僕がバリで見た宇宙です。

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グスアジという84歳のおじいちゃんがいて、そのおじいちゃんにとって大切な日を家族と仲間と友人たちが迎える。おじいちゃんの子供の代のお母さんたちが会を盛り立て、食事を用意し、男衆は楽器を取り力強い演奏をする。そのさらに子供の孫の代の子供たちが、特別な日に出されるちょっと美味しい料理をつまみながら特別な宴に見入る。少し大人になったお兄ちゃん、お姉ちゃんたちは、おじいちゃんから受け継がれた最高の踊りを生き生きと披露し、聞けば3歳になった女の子は、つい最近踊りを習い始めたと少し照れながら答えてくれました。

雨が止む事も、お香の匂いが似合う事も、金色と緑と赤が相性が良い事も、ガムランの音色が響き渡る範囲も、何もかも全て知っているバリダンスという伝統。

バリダンスにはプロはいないと言われているそうです。誰もバリダンスだけで稼ぐ人はいなくて、畑仕事など別の仕事を持っているのだとか。もちろん彼らのような一流ダンサーは、他の仕事をする必要がないかもしれませんが、でも基本的には、バリダンスにプロはいないと、一般的にはそう言われています。

そんな彼らが祝いの席で魅せる最高にして超一級のダンス。

全てが溶け合って、ぐるぐるに混ぜ合わせてポンと出て来たのは、一つの日常風景でした。

変な言い方かもしれないけど、僕がなぜこの日常風景に宇宙を感じてしまったかというと、もし僕がこの風景の一員だったら、なぜでしょうか、きっと死ぬのがそんなに怖くないだろうなと、そう思ったからです。

舞台が終わるとグスアジから皆さんへ食事が振る舞われました。

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先ほど14歳とは思えない迫力溢れるダンスを踊っていたの女の子。ダンスが終わった後のあどけない笑顔がとても印象的でした。

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歳をとったせいか、最近よく「生きる」ということについて考えます。日本では見つけにくかった答えに代わるような宇宙が、ここにあったような気がしました。

このような奇跡的な場所に立ち会えたことに、両親とDoddyさん、吉田さん、関係の皆様に感謝いたします。

Terima kasih banyak

Classic Balinese Performance Art
Tetamian
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API MAGAZINE
http://www.api-magazine.com/

14歳の女の子のダンスだけ動画で置いておきます。

unbelievable super balinese dance , by 14 years old girl.

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